活動報告

エコノミックガーデニング鳴門 【現在までの活動報告】

平成27年7月1日報告
鳴門市商工政策課

エコノミックガーデニングとは

「エコノミックガーデニング」は、1990年代、アメリカのコロラド州リトルトン市において大きな成功を収めた経済政策です。日本における一般的な経済施策との大きな相違点は、特定の商品分野や企業など、対象を特定して補助金などの支援を行うのではなく、「企業家精神(やる気)に富んだ中小企業がより活動しやすい経済環境を整える」ことを最大の目的としていることです。そうすることでやる気のある企業の活動が活発になり、地域に潜在的に存在していた企業活動の顕在化を促し、継続的な相乗効果を生み出し続けることが出来るとされています。

そのための具体的な手段として、アメリカの例では地理情報データベース(GIS)に基づいた立地情報の提供やマーケティング情報の分析と提供、インターネット、ソーシャルメディアの活用など様々な先進的手段が活用できる環境を整え、地域の各分野のエキスパートが連動しながら中小企業の成長や創業を支援していきました。(イラスト参照)

現在、アメリカではエコノミックガーデニングに対する研究も進み、さまざまな中小の都市で取り組まれていますが、この政策を経済的風土の全く異なる日本の地方都市で実施するためには、アメリカとは違ったアプローチが必要になります。

日本におけるエコノミックガーデニングは、まだどの地域でもモデル化されていませんが、EG鳴門のアドバイザーであり、エコノミックガーデニング研究の第一人者である拓殖大学の山本尚史教授によると、日本でエコノミックガーデニングを推進するためには、「経済コンシェルジュ」の存在に加え、地域内の密接な「ネットワーク(つながり)」が重要な要素であるとされています。

平成24年度からスタートした「EG鳴門」ですが、中長期的な観点から、まずは地域内ネットワークづくりに重点を置きたいと思っています。そうした土台(文化)構築の進捗を見ながら、徐々に具体的な施策や手段を地域全体で検討していきたいと考えています。


「エコノミックガーデニング鳴門」の基本方針

鳴門市のエコノミックガーデニングでは、まず地域企業の状況把握と地域内の経済的特性を再確認することから始め、次に地域内における強固なネットワークの形成、さらには以上を踏まえた有効な施策を構築するため、初期段階として次の3つの取り組みを政策の柱として位置づけました。

1. 企業訪問(支援機関と企業の距離を縮める)

 アンケートだけでは把握しきれない企業情報やニーズを収集するために、支援側と企業側の信頼関係を築くことは不可欠と考え、鳴門市のエコノミックガーデニングでは、出来る限り多くの経営者から直接話を聞くことからはじめました。企業訪問によって市の姿勢に対して理解を得ると共に成長が期待できる有望企業の発掘も兼ねており、今後も政策全体を通して継続していきたいと思います。

※ 訪問社数:H24~H26年度で約300社(複数回訪問を除く)


鳴門市産業の状況(企業訪問概要)

 全体的な傾向としては、推測していたとおり、景気の低迷に伴い製造業やサービス業を中心に経営に苦戦している企業は多く、近年の売上げに関する質問に対しては、最も多かった回答が「緩やかな右肩下がり」、次いで「現状維持」という状況でした。また、現状に危機感を持っているものの、下請けの状況や景気によって売上げが大きく左右されるため自力での打開が困難、また独自商品の開発や人材の確保に課題があることが分かりました。

 こうした回答の多かった機械製造販売・金属加工業など製造業の分野では、市内に中小企業による産業集積と呼べるものはほとんど無く、数少ない中小企業がそれぞれ昔ながらの取引関係の中で独自の経営を行っており、地域内企業間の繋がりや取引関係、また情報交換も非常に少ないということが分かってきました。また、人材不足や高齢化による事業継続に不安を感じている経営者も多く、現状のままで良いとは考えていないが打つ手が見当たらないといった状況でした。

 ただ、全体的に閉塞感が感じられる中にあって、食品関係の分野、特に鳴門金時、レンコン、わかめ、梨などの生産・加工・卸販売企業では、規模は小さいものの、好調あるいは積極的な経営姿勢をとっている事業者が相対的に多いことが分かりました。これは鳴門特産ブランドの恩恵によるところも大きいと思われますが、訪問した範囲では、この業界は比較的世代交代が進んでおり、若い世代の積極性や行動力に加え、情報発信力・収集力に優れているといった点も理由として考えられます。これらのことから、EG鳴門では、こうした企業を足がかりに活性化のすそ野を広げていく方法が有力ではないかと考えました。

2.企業間ネットワーク

 企業訪問や情報収集などを通じて特色ある取り組みを行っている企業、やる気のある企業、などいくつかの観点から企業をピックアップし、市や商工団体がハブとなって企業間のつながりをフォローしていく、地域内ネットワークの構築を目指します。単なる名簿上の繋がりでなく密接なネットワークが出来ることによる企業単体での弱点(販売力、営業力など)の補完、これまで地域に無かったような新しい取り組み、また、地域内取引の活性化などの観点から様々な検証を行っていきたいと思います。

【取り組み状況】

(1) 食品ネットワーク

 企業訪問の結果を踏まえ、第1段階として食品分野(生産・加工・販売)からピックアップした企業・生産者に情報関連企業を加えた約15社によるネットワークづくりに取り組んでいます。ネットワークは「EG鳴門 経営者ネットワーク会議(食品部門)」として、市と商工会議所、商工会も加わり、平成25年度から毎月1回開催しています。

 会議は、まず市から、共同事業や販路共有、異業種連携、情報発信関連など、様々な企画の提案を行い、参加者の意見を聞きながらその中から実施項目を絞り込み手法を練っていくという方法で進めていきました。

 様々な提案の中から最初に取り組んだのは、メンバーがつくる商品を組み合わせたギフトセットの開発です。単に商品を作るだけでなく、商品企画から販売まで、ネットワークでひとつのビジネスとして成立するようなモデルづくりを目指し、H26年7月のお中元シーズンをターゲットに商品の組み合わせや製造・販売方法などについて検討を重ねてきました。

 初めての実践となる「鳴門ミックスギフトセット」企画は、販売期間を終えましたが、残念ながら採算ラインには届きませんでした。

 しかし、メンバー全員で取り組む企画を通し、副産物として、一部のメンバーに積極性が見られるようになったこと、また企画以外でもメンバー間の情報のやりとりが行われるなど、少しずつですが以前とは空気が変わってきているように感じます。


(2) 観光ネットワーク

 鳴門市では、「鳴門海峡のうずしお」、「四国88カ所巡礼」の一番札所霊山寺などを資源とする観光産業が主要産業の一つとなっています。しかしながら近隣の観光都市に比べそれぞれの観光スポット同士の繋がりが乏しく観光客の滞在時間が短いこと、また公共交通機関が少ないため車などの移動手段を持たない観光客に対するサービスの面で課題を抱えています。

 そこで観光分野でのネットワークづくりでは、こうした課題の解決方法を関係事業者が共に考えてみようというアプローチでスタートしました。そこでまずは観光客の拠点となる宿泊施設3社に声を掛けたところ、これまでになかった取り組みと言うことで快く集まって頂けました。またこの3社に加え、観光協会の旅行企画担当者や間接的に運輸関係事業者なども加わって平成26年度に「EG鳴門観光ネットワーク」を立ち上げました。

 最初の活動の目標は、市内観光の課題である観光客の移動手段の解決ということになりました。一般的な観光都市では珍しくない周遊バスなどのサービスも、鳴門市では、財政的なものを含め様々な理由から現在まで有しておらず結果的に他地域に遅れを取ることとなっていました。

 このネットワークの企画でも採算性が大きな課題となっていますが、行政や商工会議所からの補填も最小限で済むよう、利用者の有無に関わらず大型バス走らせ続けるような手法を避け、利用者数に合わせて柔軟に対応できるようなプランを観光協会が中心となり運輸事業者と協議しながら本年度後期の観光シーズンには試験的に実施できるようプランを詰めている段階です。


(3) 今後の展望

 食品分野での取り組みは継続していきながら新しい企画に挑戦していきたいと考えています。また食品ネットワークでの経験も活かしながら、その他の製造業やサービス業、鳴門市の基幹産業のひとつである観光産業などにおいてもつながることで新たな可能性を模索していきたいと考えています。中長期的には、各産業でのネットワークで実績やノウハウを蓄積しながら異業種間のつながり、さらには地域内産業全体の強固なネットワークの構築を目指していきたいと思います。


3.中小企業支援ネットワーク

 企業間ネットワークの広がりとあわせ、地域経済全体の問題や各企業、業界などが抱える課題に対し、地域の各機関が単体で対応するのではなく、情報や支援策を共有し共に考えることで、より企業のニーズに合致した適切かつ有効な支援が期待できると考えます。鳴門市では、地域の関係機関とともに、(産学公民金)による「中小企業支援ネットワーク会議」を開催しています。

(1) 現在の状況

○ 経済団体

【鳴門商工会議所・大麻町商工会】
市内の主要企業の大半が会員であることから、企業との接点としてもEGにおいて重要な位置を占める。現在は商工会議所担当者と共同での企業訪問、経営者ネットワーク会議への参加などEGに対する理解が得られている。また市の様々な施策や企業支援策を講じる中で情報交換も頻繁に行っており良好な協力関係が築かれている。

【徳島県中小企業家同友会】
経済団体の中で会員数を増やし続けている数少ない団体のひとつである。鳴門市では定期的に勉強会等や情報交換を行っている。中小企業振興基本条例制定に関しては先進的な見識を有している。EGへの理解もあり、企業の成長促進という観点からは具体的な連携形態が決まれば早期に実施できる関係である。ただし市内企業の同友会員企業は少ない。

○ 学校・研究者

長期的な視点から、地域づくりにおいて、教育分野の理解や協力は極めて重要である。ただし、現状では地域内の教育・学術機関とは関係構築が遅れている。

○ 金融機関

阿波銀行・徳島銀行・徳島信用金庫と「企業誘致連携協定」を提携した。今後は市内の経済状況など情報交換を随時行うこととしている。銀行によって温度差はあるが、EG開始以前と比較しても大きく距離が縮まっており、様々な情報を交換出来るようになってきている。

課題としては、銀行、行政における人事異動は避けられず、人同士の繋がりだけでは数年で途切れてしまう可能性があることから、それぞれの機関の文化として定着させることを目指していく。

○ 市民団体(NPO等)

エコノミックガーデニングを継続していくにあたり、主導役として行政以外の民間組織が望ましいが、現在、市内に経済関連の市民団体がない。

○ 行政機関等

とくしま産業振興機構、工業技術センター、ジェトロ、四国経済産業局などと情報交換を行い、鳴門市の方針について理解いただき今後も協力関係を築いていくことを確認している。ただし機関によって温度差はある。


(2) 今後の展開と課題

 企業間ネットワークと支援ネットワークの連動性を高めるための地域全体での仕組みづくりと定着が最大の課題です。そのためには、それぞれの組織が形骸化しないようきめ細かいフォローが重要です。またその中でも、多くの情報とノウハウを持つ地元の金融機関と地域経済活性化の観点に立った協力関係を築けるかがポイントになると考えます。

「EG鳴門」今後の取り組みと課題

(1) 中小企業振興基本条例の制定

鳴門市が中小企業振興による地域経済の活性化を目指す姿勢を明確にするため、早期の「中小企業振興基本条例」制定を目指します。条例制定によって、施策や予算配分における優先度の支えになると同時に、中小企業振興が地域全体での取り組みであることを示すことで、より効果的な政策展開が可能になると考えます。平成26年度に基礎調査を実施し、条例審議会を立ちあげており平成28年度の条例制定を目指します。

(2) 創業の促進について

既存中小企業の成長と共に地域にとって新規創業が増えることは地域経済の活性化にとって非常に重要な要素です。現在は創業支援ネットワークの各機関の既設支援施策を活用していますが、鳴門市としてより効果の高い独自施策を模索していきたいと考えています。また、単に施策の設置だけでなく、起業相談者に対してはきめ細かな対応を心がけ、支援機関として信頼を得ることで継続性を生むことが出来ると考えます。

(3) 企業に対する直接的な支援策について

アメリカにおけるエコノミックガーデニングでは、個別企業ごとに成長するための分析を行い、企業の特性に応じた支援を行うことによって効果を上げています。これまでの行政施策では、支援制度はどうしても面的なものとなり、個別企業ごとの特性に対応できる仕組みを作っていく必要があります。

鳴門市のEGでは、現在のところネットワークなどの地盤づくりに重点を置いていますが、仕組みづくりには相当時間を要すると思われます。今後はアメリカの手法も参考に、それぞれの企業に合った個別の成長支援施策や仕組みをつくり上げて行く必要があると考えています。

(4) 情報収集・発信について

あらゆる機関から多種多様の支援策が打ち出されていますが、これらの支援制度を活用している企業は決して多くないようです。このことについて企業訪問などを通じて分かったのは、支援サイドからの情報が企業側に十分に届いていないと同時に、自ら積極的に情報を収集している企業もまた少ないということです。世代や業界によって相違はありますが、今後はこうした情報が多くの企業に届くような環境づくりに加え、企業側の情報に対する意識や情報収集力の強化策についても検討していく必要があります。

(5) EGを主導する団体(人材)

リトルトン市の例を見ても、エコノミックガーデニングの効果が発現するまでには相当な時間を要しています。現在、市が主体的にEGを推進していますが、行政には定期的な人事異動があり、時間を掛けて地域との密接な繋がりを構築することが困難です。本来であれば、民間の経済団体などが経済コンシェルジュとなり、主体となって取り組むことが望ましいことから今後は企業や関連機関などをつなぐパイプ役となる団体や人材の発掘・育成が必要です。

(6) 施策連動と人材のつながり

鳴門市では現在、エコノミックガーデニングの他に中心市街地活性化やサテライトオフィス、コミュニティビジネスなどの施策を推進していますが、これらの施策間の連動とともに施策に携わる人材を意識的につなげていく試みも進めていきたいと考えています。